「試験問題が当たる塾」はよい塾か?


文責:

  • はてブ

  • あとで

毎年、受験シーズンが終わると、大手予備校の模擬試験がその年に出題されたどこかの大学の入試問題と一致した、と話題になります。
これは、テキストやテストの作成に携わる講師や職員が情報収集能力に長けており、それらを分析して最近の入学試験の特色や傾向をどれだけ把握できているか、という教務陣の実力をアピールするのが主な目的です。
たまたま受講生が同じ学部や学科に出願していたところで、その問題だけで合格できるわけでもありませんし、そもそも滅多に起こらない話です。
全国規模で展開している大手進学塾でも事情は同じでしょう。

試験問題を当てることは案外簡単

ところが、地元の学校に通っている生徒をもっぱら受け入れている学習塾であるとか生徒一人が相手の家庭教師となると状況が異なってきます。

さすがに堂々と広告に打つことははばかられているようですが、電話で「お子さんは○○中学ですか?数学の××先生の〝対策〟ならうちは完璧ですよ」といった勧誘や応対を受けたという話を子育て中の友人から聞いたことがあります。

地域密着型の学習塾では、子供たちが持ち寄る小テストのプリントであるとか中間・期末の試験問題をコレクションすることはよくあることです。
それぞれの学校の科目・教諭ごとに2、3年もストックしてチェックすれば、どの先生が普段からどういった学習教材を手元に置いて参考にしているのか、「ネタ本」まで分かってしまうことも少なくありません。

多湖輝「スイスイ受験術」(ごま書房・1974年刊)では、試験問題は前年やその前の年あたりのものは先輩後輩の間で伝わっている可能性が大きいから、「使い回し」をためらうけれども、その前ぐらいになると油断して出題されることも多いものだ、と心理学の立場から指摘しています。

公立私立さまざまな学校から生徒が多数集まるところでは無理ですが、地域に根ざした学習塾なら、子供たちから借り集めた資料により先生の動向を掌握して、こんどは試験でどんな問題を出してくるのか、ある程度まで分析・予測することはそんなに難しいことではないのです。

試験が当たる塾はよい塾か?

「あそこの塾はテストの問題がよく当たる」と評判になったとします。
学習塾にとって、これは一番の売り物となるのでしょうか。
なるほど、こういったノウハウやテクニックを駆使して、勉強する内容のうちここだけ集中してやらせておいて、ものの見事にあたった、成績も上がった、親に感謝され、保護者の間で噂が広まって生徒も増えてくる…経営者としては有り難いことです。
講師には学習指導のノウハウ以上に、これからもぜひ問題を当ててくれ、と期待したくなるところですね。

しかし、これは肝心の生徒にとっても、学習塾の経営にとっても、長い目で見た場合には、そもそもメリットとなるものなのでしょうか。

プロの家庭教師の世界では「手作りの教材は親に喜ばれる」という秘策があるのですが、これを逆手にとって、学校で配られた教材類を押し付けて「先生、今度の中間テストのために予想問題をつくってきて下さい」と要求してくる親御さんがいるようです。
約束した時間内の指導を充実させるために追加の勉強するならともかく、こうした「時間外労働」は時給が原則の家庭教師には迷惑な話ですし、本人の代わりに試験対策、つまり勉強そのものをするという意味では、限りなくルール違反に近いやり方とも言えますから、派遣業者の中にはこうした依頼は断るよう指導しているところもあります。

ドーピングの罪

家庭教師はもちろん、意識の高い保護者の間では、こういう「代わりに勉強してもらう」「試験のヤマを当ててもらう」という行為は、およそ指導や勉強に値しない、いわば下駄を履かせて身長を測り続けるようなもので、子供のためにならないと考えられているのです。

ABCDEのうち、テストに出そうなABだけ教え込むけど先々知識の土台となるのに知っておかなければならないCDEをおろそかにしてしまっては、「学び漏らし」が発生します。これは国語・数学(算数)・英語など、長年にわたっての積み重ねが大切な科目では特に致命的な結果を引き起こしかねません。

ましてや、塾に頼って成績をかさ上げしているだけでは、学校で習った内容から自分の力で重要な事項、ちゃんと身に付けておかなければならない事柄を整理・把握して行くという、およそ勉強にとって最も大切なノウハウが育たないでしょう。

高校から大学受験、本格的な資格試験…と勉強はこれからも続くものです。問題を当ててくれる塾のドーピングにいつまでも頼っていられるわけではありません。いずれ学び方も分からなくなり、行き詰まってしまうことは明らかです。

一方、学習塾や予備校にとっても、「テストがよく的中する」ということばかりがお客さんから期待されるのは長い目で見て得策であるとは限りません。

「自分の代わりに〝勉強〟してくれる」ことばかり期待して、ちゃんとした勉強をしようとしない生徒、校内テストなどその場しのぎで切り抜けたら十分だという意識の低い保護者ばかりが群がる学習塾は、全体として質の低下を招き、結局うまく育たないはずです。

授業の分かりやすさ、サポートの的確さといった、学校教育に不足しがちな何かを補い、サービスとして提供できる役割こそあなたの塾には必要なのではないでしょうか。

筆 者

五薬庵主人(ごやくあんしゅじん)

某私立大学文科系大学院修士課程修了。学部生の頃から中・高・浪人と主に「学業不振児」担当の家庭教師を続ける傍ら、地元英会話教室に併設された数学(算数)の授業で講師として小中学生の指導歴10余年。のちに某大手通信教育(英語翻訳、英検、他)で教材製作・添削・学習相談・クレーム対応に健筆を振るって10余年。年齢に似合わず、自分で組み立てたパソコンを自在に操り、現在、編集プロダクション「エス・ケイ舎」舎主。
エス・ケイ舎facebookページ https://www.facebook.com/esukeisha/

カテゴリー: